商品研究レポート

支点の数で
使い心地が変わる?!
〜ホチキスの性能を調査〜
「軽い力で使える 」「書類がかさばらない」といった機能性に優れたホチキスが数多く売られています。今回は従来のタイプと軽くとじられるタイプを選び、指にかかる力を比較しました。
(※一般的名称として広く知られていることから今回は「ステープラ」ではなく「ホチキス」で表記しました。)
使い心地の良さにメーカーの工夫が
書類をまとめるのに利用するホチキスですが、押し具合がかたく、うまくとじられなかった経験があると思います。最近ではこの”押す”構造に工夫を凝らしたいろいろなホチキスが売られています。
一般家庭用として多いのは「10号」サイズと呼ばれるホチキスで、主流はとじる枚数が10〜20枚程度の従来タイプと20〜30枚程度でも軽くとじられる軽とじタイプの2種類。軽とじタイプでは、てこの原理を応用し、より軽い力でとじられるよう工夫されています。
メーカーごとに細かい仕組みの違いはありますが、両タイプで大きく違うのは支点の数(図1)。押しやすさには支点・力点・作用点の距離が関係していますが、従来タイプは支点が1つのため、指にかかる負荷は大きい傾向にありました。それに対し、軽とじタイプは支点を2つにして、力点・作用点の位置関係を調整し、てこの原理が2段階働く構造を実現。従来品と大きさを変えずに楽に押せるようになっています。
また、針のとじ方にもひと工夫。以前はとじ裏がでっぱってしまい、かさばるものが多かったのですが、最近はとじ裏がフラットで、その分、とじる枚数が多くなったタイプもあります。
今回は、メーカー5社の10号サイズのホチキスの中から、 従来タイプ、 軽とじタイプをそれぞれ1個・計10種類を使い、紙をとじる際の親指と人差し指にかかる負荷を比較しました(表1)。
機種による最大負荷は大差なし
紙をとじる際、指にどの程度の負荷がかかっているのか、親指と人差し指に感覚を数値化するセンサーを取り付け測定しました(図2 測定機器=Hap Log/テック技販)。
試験には一般的なコピー用紙 (重量64g/㎡を縦3㎝ 、横10㎝ に切ったもの)を使用し、5枚とじ、10枚とじの2条件で測定しました。1名の研究員が行い、試験品1点につき、3回測定して平均値を算出しました。
その結果、親指・人差し指とも、指にかかる最大負荷はメーカー・タイプ別であまり変わらず、5枚とじ、10枚とじの2条件とも同様の結果となりました(図3) 。
指にかかる負荷の時間に違い
次に負荷測定時の波形の様子をそれぞれ観察してみました。その結果、従来タイプのほうが指にかかる負荷の時間が長く、軽とじタイプでは短い傾向にありました。
この傾向は全てのメーカーで同様でした。ここでは例としてEとF、GとH計4種類の結果を示します(図4)。
親指にかかる負荷の波形をみると、従来タイプは、いびつな左右非対称の形をとっているのに対し、軽とじタイプは、左右対称の綺麗な波形となっています。針を変形させてとじる際の機構が関係していると思われ、両タイプの機構の差がよく確認できました。
また、それぞれの波形の面積を求め、従来タイプと軽とじタイプでどの程度の違いがあるかも確認しました。結果、どのメーカーの商品も軽とじタイプのほうが指にかかる負荷が小さく、親指については全体的に約1・5〜2倍程度負荷が小さくなる結果となりました。
( ※ 結果はあくまでも今回の条件に限ったものですのでメーカーの各種公表値と必ずしも一致しない場合があります。)
機種により数値と感覚に乖離も
次に男女各4名・計8名により官能評価をおこないました。試験は、コピー用紙を10枚に束ねた紙片を、10種類の試験品を使ってランダムにとじてもらい、押し具合について5段階で評価してもらいました。
また評価は1名それぞれ2回、1回目と2回目は日を空けて行いました。
その結果、指にかかる負荷と感じ方はBとJを除き、基本的には相関性がみられました。男女とも負荷のかかる従来タイプは重く感じ、軽とじタイプでは軽く感じる傾向がみられました(図4)。
Bの軽とじタイプは、負荷は小さいものの、針をフラットにするタイプのため、その挙動が人によっては重く感じた可能性が考えられます。
逆にJはBよりも負荷が大きい結果でしたが、針のとじ裏がでっぱるタイプのため、挙動が少なく軽く感じたのではないかと思われます。
今回使用したホチキスだけでもさまざまな特徴があり、とじた針が外しやすいようにするなど細かいところにもメーカーの工夫がみられます。実際に試してお気に入りの1台を選んでみてはいかがでしょうか。
(2019.5.16 生活科学研究室)