今までの研究レポート

ホットケーキ
混ぜ方ひとつで厚みや味、食感に差
ホットケーキは、子どもたちにもスイーツ好きの大人にも人気がある定番おやつ。
ホットケーキミックスを使って「中はふんわりしっとり、外はムラのない焼き色」の焼き上がりを目指し、料理本や雑誌でもさまざまなノウハウが紹介されてきた。
ところが、海外のパンケーキ専門店の出店ブームが起きた数年前から、「厚み」「高さ」が評価ポイントに加わってきたようだ。
ホットケーキミックスのトップメーカーである森永製菓(株)も、2014年4月からパッケージに「目指せ!ふんわり2.3cm」と高さをアピールしている(写真1、2)。
そこで厚みのあるホットケーキを上手に焼く方法を調べた。
研究目的
厚みのあるホットケーキを焼くために、生地の調整方法、型の使用、副材料の添加について検討した。
実験材料
● 基本材料
ミックス粉 : 森永ホットケーキミックス 森永製菓(株)
牛乳 : 明治おいしい牛乳 (株)明治
卵 : たまご農場、または(株)関東エッグファーム、またはさくら農場
● 配合
ミックス粉のパッケージ表示に従い、ミックス粉150g、牛乳105g(1カップ)、卵50g(1個)を重量計量した。卵は、店頭に並んだ初日に購入し、1~2日以内に使用した。
測定項目
ホットケーキの中央の高さ(厚み)をハイトゲージで測定した。
周径を巻尺で測定し、直径を計算により求めた。
生地の調整と型の使用
基本生地の混ぜ具合2種(①②)、卵の泡立て効果2種(③④)、型の使用2種(⑤⑥)、副材料の添加2種(⑦⑧)を検討した。
また、生地を混ぜる器具は泡立て器のみ、とした。
● 基本生地の混ぜ具合
①ざっくり混ぜ
・ 卵と牛乳をよく混ぜ、粉を加えて20回、ダマが残る程度で混ぜ終える。
②よく混ぜ
・ 卵と牛乳をよく混ぜ、粉を加えて滑らかになるまでよく混ぜる。
● 卵の泡立て効果
③卵白メレンゲ+ざっくり混ぜ
1) 卵を卵黄20gと卵白30gに分ける。卵白のみをしっかりと泡立て、卵白メレンゲを
作る(写真4)。
2) 卵黄と牛乳をよく混ぜ、粉を加えて10回混ぜる。
3) 卵白メレンゲの半量を加えて5回混ぜる(写真5)。
4) 残りの卵白メレンゲを加えて5回混ぜる(写真6)。
④共立てメレンゲ+ざっくり混ぜ
1) 卵50gをしっかりと泡立て、共立てメレンゲを作る(写真7)。
2) 牛乳に粉を加えて10回混ぜる。
3) 共立てメレンゲの半量を加えて5回混ぜる(写真8)。
4) 残りの共立てメレンゲを加えて5回混ぜる(写真9)。
● 型の有無を検討
⑤セルクル+ざっくり混ぜ
・ 直径12cmのセルクル(ステンレス製の枠)を用い、「ざっくり混ぜ」生地を焼く。
⑥セルクル+卵白メレンゲ+ざっくり混ぜ
・ 直径12cmのセルクルを用い、「卵白メレンゲ」生地を焼く。
● 副材料の添加
⑦マヨネーズ+ざっくり混ぜ
・ 基本材料の牛乳を85gに減らし、副材料としてマヨネーズを20g加える。混ぜ方は
「ざっくり混ぜ」とした。
⑧ヨーグルト+ざっくり混ぜ
・ 基本材料の牛乳を52.5gに減らし、副材料としてプレーンヨーグルト50gを加える。
混ぜ方は「ざっくり混ぜ」とした。
焼き方
熱源は、卓上電磁調理器(象印EZ-FS35-TA)を用いた。フライパンは、IH対応に対応したフッ素樹脂加工のものを用いた。
電磁調理器とフライパンは2セットを用意し、調整した生地100gずつを流し、同時に焼いた。これを2回繰り返した。
1) フライパンを電磁調理器にのせ、弱めの中火にセットする。フライパンの中央の温度が
約130℃になるまで加熱する(写真10)。
2) 生地100gを流し入れる(写真11)。
3) 表面を4分、裏返して2分加熱した。セルクルを使用した場合は厚みがあるため、
表面を5分、裏返して2分加熱した。
結果
表に、各条件で焼いたホットケーキの表面と断面の写真、4枚の測定値平均をまとめた。
● 外観
「①ざっくり混ぜ」「③卵白メレンゲ+ざっくり混ぜ」は生地がボッテリしているため、きれいな円形に流すことができなかった。そのため、焼きムラが生じやすかった。
「②よく混ぜ」は生地が滑らかで流しやすく、均一に伸びるためきれいな円形になり、ムラのない焼き色がついた。
「④共立てメレンゲ+ざっくり混ぜ」は均一に混ぜることができなかったため、焼き色がまだらになった。
「⑤セルクル+ざっくり混ぜ」「⑥セルクル+卵白メレンゲ+ざっくり混ぜ」はゆがみのない円形に焼き上がったが、ところどころセルクルに焼き付き、縁が欠けてしまうことがあった。
「⑦マヨネーズ+ざっくり混ぜ」の生地は「①ざっくり混ぜ」よりもやや重たかったが、焼き上がりはほぼ同様であった。
「⑧ヨーグルト+ざっくり混ぜ」の生地は最も重く、フライパンにボタッと落とし入れることしかできなかったため、かなり形が崩れてしまった。
● 断面
「①ざっくり混ぜ」「⑤セルクル+ざっくり混ぜ」は、ともに気泡が大きく、キメが粗かった。
「②よく混ぜ」はキメが均一であった。
「③卵白メレンゲ+ざっくり混ぜ」「④共立てメレンゲ+ざっくり混ぜ」「⑥ルクル+卵白メレンゲ+ざっくり混ぜ」は気泡が小さく、ふわっとしていた。
「⑦マヨネーズ+ざっくり混ぜ」の気泡は大きかったが、「⑧ヨーグルト+ざっくり混ぜ」の気泡は8種類中、最も小さかった。
● 重量減少率
焼き上げた後の生地重量の減少率は、直径が小さいものほどフライパンに接する面積が少なくなるため、減少率が低い。
セルクルを使用したものの減少率が高くなったのは、セルクルに生地が付着してしまったためである。
● 高さ
図に、各ホットケーキの高さ(厚さ)と直径をまとめた。
手間をかけて卵を泡立てても、「③卵白メレンゲ+ざっくり混ぜ」2.5cm、「④共立てメレンゲ+ざっくり混ぜ」2.4cmと、「①ざっくり混ぜ」2.4cmと同程度であった。
セルクルを使用すると「①ざっくり混ぜ」よりも直径が1cm小さいくなるため、「⑤セルクル+ざっくり混ぜ」は2.8cmと、「①ざっくり混ぜ」よりも4mm厚くなった。
「②よく混ぜ」は生地をフライパンに流すときに広がってしまうため、2.1cmと最も薄かった。
「⑦マヨネーズ+ざっくり混ぜ」「⑧ヨーグルト+ざっくり混ぜ」は直径がセルクル使用のものよりも小さめであったためか、ともに2.8cmと、セルクルを使用したものと同程度になった。
一般的に小麦粉を使った粉生地を練り混ぜると、小麦粉のグルテン(たんぱく質)がかたく結合してしまい、膨らみが悪くなる。
それに対し、マヨネーズを混ぜて焼くと、乳化された植物油や酢がグルテンの形成に影響を与え、生地が膨らみやすく、やわらかになるという。
ミックス粉には生地を膨らませるために重曹が加えられている。重曹は酸と反応すると発泡する性質があるため、酸を含むヨーグルトを混ぜ込むことで重曹の働きが促進される。しかし、早い段階で反応しすぎると、焼いている途中で重曹が働かなくなってしまうことも考えられる。ヨーグルト添加生地の膨らむメカニズムについては、さらなる検討が必要と思われる。
まとめ
高さを出すには、何よりも混ぜ方がポイントになることがわかった。高さのあるホットケーキを作りたいなら、「ざっくり混ぜ」が最も効率的といえる。
対照的な「よく混ぜ」は、生地が滑らかなので、きれいな円形に流すことができ、焼き色も均一である。「中はふんわりしっとり、外はムラのない焼き色」という従来の評価ポイントを最もよくクリアしている生地だが、焼き上がりは最も薄かった。
メレンゲを作るには手間がかかるが、高さを出す効果はあまり期待できない。しかし、味は確実にランクアップする。
副材料としてマヨネーズとヨーグルトを加えたが、高さに対しては「ざっくり混ぜ」以上の効果は得られなかった。しかし、味はもちろん、弾力にも大きな差が得られ、高評価であった。
最後に…
最後に、セルクルを使用した実験での方法を改善し、高さがあって厚みと焼き色にムラのない美しいホットケーキの焼き方を紹介する。
写真12は、焼き上げた「セルクル+ざっくり混ぜ」の側面。段差がなく高さも均一で美しい焼き上がり。
写真13は、一般的な「ざっくり混ぜ」。側面に段差ができ、縁に近い部分は中央よりも薄い。
(2014.09.19 食品料理部門)
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