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自動車内のダストに含まれるダニ調査
〜車内も掃除が大切〜 IPM 研究室では、室内環境における生物アレルゲン(ダニ、カビ、ハウスダスト中のチャタテムシ等の昆虫)の実態とその対策法について調査・研究を行い、テレビ、雑誌、新聞で一般の方々へ啓発してきました。室内塵性ダニ類については、住宅形態、築年数、階層、立地条件など様々な角度から分析することにより、どのような材質で増殖しやすいのか、掃除や洗濯はどのくらいの頻度が有効であるかなど明らかにしてきました。
今回は自動車内のダストの調査を行いました。自動車内の環境は住宅環境とは異なりますが、通勤や買い物などで日常的に利用されている動く閉鎖環境でもあります。しかしながら、車内のダストに含まれる生物については、ほとんどわかっていません。近年のペットブームから、イヌを同乗させて買い物やドライブに出かけることも増えているようです。イヌ由来の毛や垢などはダニのエサとなるため、ダニを発生させる原因となります。そこで、イヌを日常的に乗車させている車と、イヌをはじめペットを飼育していない方の車の2群について車内のダストを調査してみました。
調査方法
調査対象の車は、布製シートの5人乗り5ドア車で、「ペットを飼育していない家庭の車(以下、ペット無し)」4台(A〜D)と「イヌの同乗ありの車(以下、イヌ同乗)」6台(E〜J)の2群に分けました。A〜E、H、Jは成人前の子供がいる家庭で、日常的に後部座席を使用しており、F、G、I は子供がいない家庭です。イヌ同乗の群は、イヌを月に2回以上、ペット用キャリーコンテナに入れずに乗せている車です。
各車内ダストの採取は「座席(全シートの座席面)」と「床面(座席下とトランクルーム)」に分け、サイクロン式ハンディー電気掃除機(Dyson V6 Fluffy+)を用いて、秒速約20cmのスピードで動かしながら強モードで吸引しました。採取時間は、座席については、約1.5分×5席=約7.5分。床は約2.5分×2列+トランクルーム2分=約7分としました。また、採集箇所に応じて異なるノズルを用いて吸引し、微細なダストを取り残すことなく吸引するように努めました(写真1)。
採取したダストは、秤量の後、ダーリング液浮遊遠心法によって含まれるダニを分離しました。分離したダニの内、ハウスダストアレルギーの原因となるコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)とヤケヒョウヒダニ(D.pteronyssinus)をヒョウヒダニ類として計数しました。また、ダストに含まれるダニアレルゲン(Der 1)量も合わせて分析しました。

結果1:車内で採取されたダストの重量
車内ダスト量を表1に示します。座席のダスト量はペット無しの方が多く採取されました。ペットを飼育していない群は、家族が後部座席を日常的に使用しているため、イヌを乗車させている群と比べて使用頻度が高くダストが生じやすい環境であると推察されます。イヌを乗車させている車の床面は逆に、イヌの抜け毛が多く、ペット無しの車よりもダストが多い傾向が見られました。
結果2:ダスト中のダニおよびアレルゲン物質について
採取したダストに含まれているヒョウヒダニ類とダニアレルゲン量の分析結果を表1に示します。一般住宅のハウスダストからは、約100頭/gのダニと約1μg/gのダニアレルゲンが採取されることから、多くの車内は住宅内よりも少ないことがわかりました。しかしながらイヌ同乗のG車の座席から、ダスト1g当たり851頭と非常に多数のダニが分離されました。一方でイヌ同乗車でありながら、全くダニが検出されない、あるいはペット無しの車と同程度のダニ数だった車もあり、ペットの有無以外にも車内でダニが増加する原因があると考えられます。
ダニアレルゲンについては、ペット無しのD車、イヌ同乗のG、H、I車の座席からは、一般住宅と同程度の量が分離されました。座席は床よりも、イヌ同乗の車はペット無しの車よりも、ダニアレルゲンが多く分離される傾向にありました。
今回の調査では、「座席、床共にダストが少ないがダニの生息数が多い車」、あるいは「ダストが多いがダニが少ない車」など様々で、ダニ頭数やアレルゲン量は、ダスト量との相関関係を示していませんでした。しかしながら、イヌを同乗させている車は、少ないダスト量であってもダニ数が多くなる傾向が示唆されたことは注目すべき結果です。
ダニは、フロアカーペットに絡まっているイヌの毛や座席の隙間に挟まっている小さなゴミなどの有機物をエサとしていると考えられます。
また、小さな子供がいる家庭ではビスケットやせんべいなど食物の破片が座席の下に落ちていることが多く、ダニの繁殖源となっていたようです。
小児は何かしらのアレルギーになると様々なアレルギーを発症しやすい体質になります。餌となる有機物を掃除機で除去し、ダニの繁殖を防ぎましょう。
本研究はダイソン株式会社との共同研究で実施しました。

(2017.10.27 IPM研究室)
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