研究レポート

IPM 美術品・文化財
保存サポートサービス
暮らしの科学部 IPM研究室では、今年から美術品・文化財保存のためのサポートサービスを始めました。
事業背景

作品に生じる褐色斑点の元となるカビの原因菌:Aspergillus penicillioides
IPMとは「Integrated Pest Management」の略で、「総合的有害生物管理」を意味します。元々は農業の分野で実施されてきたもので、既に長い歴史があります。
美術品や文化財の分野では文化財燻蒸ガスとして長く使用されてきた臭化メチルが全廃された2004年末を前後して導入された防除法で、現在主流になりつつあります。
しかしながら、この分野の専門家が非常に少ないことと「IPMとは科学薬剤を使用しない防除法である」との間違った考え方が流布されているのが現状です。
また、保存・修復に携わる方々の意見を集約すると、以下に列記するような問題点が浮かび上がりました。
- 地方の美術館や博物館は、湿気が多く、寒暖の差が大きい場所での絵画や文化財の保管を余儀なくされている。
- 美術館や博物館で働く学芸員は文科系出身が多く、美術品や文化財を管理する際に不可欠な理系分野の科目を十分に勉強していない。
- 人件費削減の折、収蔵の管理にまで手が回らないのが現状。
- 従来、美術品や文化財の管理といえば、定期的なガス燻蒸処理と破損(カビ被害等)がひどくなってからの修復の二者択一しかなかった。
- 学芸員や館の責任者にしてみれば、収蔵品の管理や館内の環境改善について、アドバイス(相談や調査)を受ける先は一部の公的研究機関に限られている。
修復工房との共同プロジェクト化

絵画のクリーニング処理
このような現状を踏まえ、当研究所では「IPMを根幹として、絵画や文化財を守り、
後世に残すことが大切である」と考え、美術館の「館内環境のカビ発生調査」を
中心に活動してきました。
そんな中、作品自体の検査も必要となり、昨年から同じ考えをもつ株式会社シー・アール・エスの協力を得て「作品のカビ汚染検査」も手がけるようになりましたが、これをきっかけに本格的な共同プロジェクトまで発展しました。これにより、美術館や博物館の室内環境の調査と作品自体の検査の両方を行うことが可能になり、IPMを根幹とした、より具体的な管理サポートを提供することが可能になりました。
業務内容

滅菌スタンプ瓶による絵画のカビ検査
お引き受けできる業務内容は、以下の項目です。現場の環境条件、マンパワー、費用などを考慮しながら、無理のない範囲で実践していくことを真摯にお手伝いしたいと考えています。
- 館内(収蔵庫・展示室・バックヤード)の有害生物及び建築構造の調査
- 作品のカビ調査
- IPMに基づく改装工事などのアドバイス
- IPMに基づく定期検査(定期的なカビ・害虫等の検査、センサーやサーモレコーダーなどを使った検査など)
- 修復処理(修復しによる簡易な除菌処理から大掛かりな破損修復まで)
- 作品管理のためのデータベース作成
- 館内の空間および床の殺菌処理業者とガス燻蒸処理業者の紹介(処理前後の効果判定を含む)
- 収蔵庫に眠っている絵画の貸し出しサポート(貸し出しの前後のカビ・破損・汚れ等の検査)
- 美術品専用保存袋の開発と販売
【WEBサイトのご案内】
専用のWEBサイトも開設いたしました。
URL:https://www.fcg-r.co.jp/ipm/
WEBサイトのコンテンツにはIPMについての基本的な考え方や、詳しい業務案内、美術品保存のための役立つコラムなどをご紹介しております。
(2009.09.17 IPM研究室)
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環境科学研究室では、「ダニ」「カビ」「微小昆虫類」「抗菌性評価」など
室内環境の有害生物の研究・調査に対応いたします。
- 室内環境中で健康被害を及ぼすダニ・微小昆虫類・カビなどの研究
- 喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルゲンとなる生物の研究
- 大学や国公立の研究機関との共同研究
- 空気清浄機の除菌性能評価、抗菌素材の性能評価などの商品実用試験
- 異物混入検査