エフシージー総合研究所・フジテレビ商品研究所

2013年研究発表

室内環境における医真菌の分布とマイコトキシン産生性

室内環境における
医真菌の分布と
マイコトキシン産生性

9月27日に開催された第57回日本医真菌学会で、「室内環境における医真菌の分布とマイコトキシン産生性」の演題で発表しました。

 ヒトが1回の呼吸で吸い込む空気は約500mLといわれるが,それから換算すると1時間に約540Lの空気を吸い込んでいる。家にいる時間を10〜12時間とすると,家の中で吸う空気の量は5,000〜6,500Lにもなる。この空気中に,健康を害するカビ胞子が浮遊している。仮に1,000cfu/m3のカビ胞子が浮遊している住宅では, 居住者が1日に家の中で吸い込んでいるカビ胞子の量は5,000〜6,500個にもなる。演者は室内浮遊真菌および室内生息性の微小な昆虫が運搬する真菌について研究中である。特に深在性真菌症やアレルギー疾患の起因菌であるAspergillus をターゲットとしている。テーマ1は ①A. fumigatus,②Aspergillus section Circumdati (A. ochraceus group),③Aspergillus section RestrictiA. restrictus group)の分布とマイコトキシン産生性について。テーマ2はタバコシバンムシ,ノシメマダラメイガ,ヒラタチャタテなどの昆虫が体に付着させて運搬しているAspergillus の同定とマイコトキシン産生性についてである。以下のような調査結果と考察について報告する。「A. fumigatus は,一般に室内浮遊濃度は低い。しかしながら,粉状に繁殖した集落(発生源)から一時的に多量に空中浮遊する可能性が高い。section Circumdati とsection Restricti は室内浮遊濃度が高いことが多い。微小昆虫は高いマイコトキシン産生性を有するAspergillus を運搬することが示唆されている。」
 

Aspergillus fumigatus

 今回も調査期間を通して分離されたが,いずれも低濃度だった。
 2軒の住宅において顕著に分離されたのは,A. section restricti の仲間だった。このグループは塵埃中に含まる好乾性真菌で,室内空気中からも高濃度で分離される事例をしばしば見かける。このsection の代表種であるA. restrictus はアレルゲンとなることが知られ,医学的に重要な種である。また,このsectionの中でA. restrictus に並び分離頻度の高いA. penicillioides は美術作品,工業製品,書籍の汚染菌として問題視されている。今回の調査では,いずれの月もA. section restricti が高濃度に分離されており,上尾市住宅では8月に8,000CFU/m3を超えた。

 浮遊真菌は絨毯や畳の塵埃に広く分布することが知られるAspergillus section Restricti が高頻度に分離された。今回10,000 CFU/m3を超えた3軒の住宅(⑧⑯⑲)における真菌相は大半がsection Restrictiに属するA. conicus であった。section Restricti に適した好稠性培地を使用しているが,20軒におけるsection Restricti の平均の平均濃度は800 CFU/m3以上で,Cladosporium 属の平均濃度260 CFU/m3を超えていた。section Restricti の中ではA. restrictus がアレルゲンとして知られている。

 Aspergillus section Circumdati (A. ochraceus group) は代表種A. ochraceus を始め,A. melleusA. scleotiorumA. steyniiA. westerdijkiae などが属し,一部の種がOTA・OTBなどオクラトキシン類やPenicillic acid などの代謝産物を産生することが知られている。これらは形態的に類似しており,遺伝子情報やマイコトキシン産生性を併せた総合的な判断を基に種が同定されている。オクラトキシンの名が示す通り,従来,A. ochraceus がOTA産生種の象徴的な存在であったが,近年,A. westerdijkiae を始めとしたOTA産生能を持つ複数のsec. Circumdati が新種として報告された。過去にA. ochraceus と同定してきた菌株について再同定を実施した場合,数多くの菌株がsec. Circumdati 近縁種に訂正される可能性が示唆されている。
 今回,エフシージー総合研究所で保存しているsec. Circumdati 計103株について遺伝子解析とマイコトキシン産生性の分析を行った。103株はいずれも日本国内で分離された菌株で,その内訳は,タバコシバンムシ由来60株,ノシメマダラメイガ由来11株,空気中由来26株,土壌由来5株,手さげバッグ由来1株である。遺伝子解析ではミトコンドリア・チトクロームb(Cytb)遺伝子,26SrRNA遺伝子D1/D2領域,β-tubulin 遺伝子の塩基配列を決定し,3通りの遺伝子領域についてDNAタイプを分類した。また,103株を大麦で培養・抽出し,OTAおよびOTBの産生量をLC/MS/MSにて定量した。
 結果, Cytb遺伝子のタイプはAO-D-1, AO-D-2, AO-D-3, AO-D-3-2, AO-D-4,AO-D-5およびAO-D-6の7通りに分類され,103株中81株(78.6%)がAO-D-4であり,A. westerdijkiae CBS112803(Type strain)と一致した。A. ochraceus CBS10808(Type strain)はAO-D-2と一致したが,AO-D-2に分類された菌株は103株中3株(2.9%)であった。多量のOTA・OTBを産生する菌株はAO-D-4に集中し,このタイプにおけるOTA検出株は81株中69株(85.2%),平均OTA産生量は1910μg/麦5gであり,OTB検出株は81株中54株(66.7%),平均OTB産生量は235μg/麦5gであった。AO-D-2ではOTA検出株が3株中1株(33.3%),平均OTA産生量は0.7μg/麦5gであり,OTBは検出されなかった。それ以外の遺伝子タイプに分類された菌株のOTA産生量はいずれも検出下限を下回った。
 D1/D2においても,多量のOTAを産生するグループ(A. westerdijkiae)とそれ以外のOTA非産生・弱産生のグループに大きく分かれた。β-tubulin においても同様の傾向であった。
 以上の結果から,日本国内(特に室内環境中)に分布するオクラトキシン産生能を持つsec. Circumdati の多くがA. westerdijkiae であると推察する。

 浮遊する真菌(カビ)胞子の吸入によって引き起こされる健康被害として,アレルギー疾患や肺アスペルギルス症が著名であるが,真菌の有害性にはもう一つの大きなファクターがある。真菌の多くはカビ毒(マイコトキシン)と呼ばれる二次代謝物を産生しており,人体に対して生理的・病理的障害を与える。マイコトキシンへの警戒は主に食品含有に集中しており,浮遊真菌のマイコトキシンが有害ファクターとしてクローズアップされることは少ない。主要なマイコトキシンの一つであるオクラトキシンA(OTA)は,発がん性,遺伝毒性,神経毒性などを引き起こすことが知られ,欧州では食品含有量に規制値が設けられている。Aspergillus 属,Penicillium 属の複数種が産生するが,特にAspergillus section Circumdati (Aspergillus ochraceu グループ) に属する種が強力なOTA産生性を示す。「Section Circumdati」とは代表種Aspergillus ochraceus を始め,A. melleusA. scleotiorumA. steyniiA. westerdijkiae などが属する住環境中にごく普通に分布するAspergillus 属の1節(section)である。Section Circumdati の一般住宅における空気中濃度は概ね1.0CFU/m3以下であり,浮遊真菌としてはあまり目立たないグループである。しかし,一定の条件が整った際に高濃度に発生し,場合によっては数万CFU/m3に達する事例も存在する(図1)。Section Circumdati の胞子にはOTAが含有されているため,高濃度環境下では胞子吸入とともに人体がOTAに曝露されることになる。
 Section Circumdati 内でも種の違いによってOTA産生種・非産生種が存在する。これらの近縁種は形態的に類似しており,遺伝子情報やマイコトキシン産生性を併せた総合的な判断を基に種が同定されている。オクラトキシンの名が示す通り,従来,A. ochraceus がOTA産生種の元祖であり象徴的な存在であったが,近年,A. westerdijkiae を始めとしたOTA産生能を持つ複数のsection Circumdati が新種として報告された。過去にA. ochraceus と同定してきた菌株について再同定を実施した場合,数多くの菌株がsection Circumdati 近縁種に訂正される可能性が示唆されている。
 今回,室内環境中に存在するsection Circumdati の分布とそのOTA産生性を把握するため,エフシージー総合研究所で保存している室内環境由来のsection Circumdati について遺伝子解析とオクラトキシン産生性の分析を行った。

 分析に供した97株のsection Circumdati はいずれも日本の室内環境で分離された菌株で,その内訳は,空気中由来26株,タバコシバンムシ由来60株,ノシメマダラメイガ由来11株である(これらの昆虫は屋内害虫である)。遺伝子解析ではミトコンドリア・チトクロームb(Cytb)遺伝子および26SrRNA遺伝子D1/D2領域の塩基配列を決定し,2通りの遺伝子領域についてDNAタイプを分類した。また,97株を大麦5gで培養後,酢酸エチルにて抽出し,LC/MS/MSを用いてOTAの産生量を定量した。
 Cytb遺伝子のタイプはAO-D-1, AO-D-2, AO-D-3, AO-D-3-2, AO-D-4,AO-D-5およびAO-D-6の7通りに分類され,D1/D2領域では,D1D2-1,D1D2-2,D1D2-3およびD1D2-4の4通りに分類された。97株中76株(78.6%)がAO-D-4に分類され,A. westerdijkiae CBS112803(Type strain)と一致した。AO-D-4は,D1/D2領域でさらにD1D2-2およびD1D2-3の2通りに分けられた。A. ochraceus CBS10808(Type strain)はAO-D-2と一致したが,AO-D-2に分類された菌株は97株中3株(3.1%)であった。多量のOTAを産生する菌株はAO-D-4に集中し,このタイプにおけるOTA検出株は76株中64株(84.2%),平均OTA産生量は1909μg/麦5gであった(図2の遺伝子系統樹に示す太円部分がAO-D-4)。AO-D-2ではOTA検出株が3株中1株(33.3%),平均OTA産生量は0.7μg/麦5gであった。それ以外の遺伝子タイプに分類された菌株のOTA産生量はいずれも検出下限を下回った。
 以上の結果から,日本の室内環境に分布するsection Circumdati の多くがA. westerdijkiae であると予想され,分離されたsection Circumdati は大半がOTA産生能を有する菌株であると考えた方が良いだろう。

環境科学研究室では、「ダニ」「カビ」「微小昆虫類」「抗菌性評価」など
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【室内環境生物分野の試験および研究】
  • 室内環境中で健康被害を及ぼすダニ・微小昆虫類・カビなどの研究
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  • 異物混入検査

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