エフシージー総合研究所・フジテレビ商品研究所

2011年研究発表

平成23年度室内環境学会学術大会

日時と場所: 2011年12月8日〜9日 グランシップ
発表演題と発表者: 空中浮遊 Aspergillus 属の季節消長とマイコトキシン産生量
橋本 一浩1), 2),川上 裕司1)
浅野 勝桂3),陰地 義樹3)
1)(株)エフシージー総合研究所 IPM研究室
2)麻布大学大学院環境保健学研究科
3)奈良県保健環境研究センター

諸言

近年,室内浮遊真菌による健康影響が注目されはじめ,多くの研究結果が報告されるようになった。真菌による疾病は大きく分けて3つある。(1)吸入することによって発症するアレルギー性疾患,(2)肺や肝臓などに感染する深在性真菌症,(3)真菌が産生するマイコトキシンによるカビ毒中毒症である。

住環境中に浮遊する真菌はCladosporiumAspergillusPenicillium の3つの属の糸状菌が大半を占めることが多い。Aspergillus属は(1)〜(3)の病原性を持つ種が複数存在し,医学上,重要な真菌である。特にAspergillus fumigatusは肺アスペルギルス症の起因菌として著名であるが,同種はアレルゲンとしてアレルギー性疾患を引き起こすこともあり,また,14種類に及ぶマイコトキシン(カビ毒)を産生することも知られている。昨年度の大会では,空気中から分離されたA. fumigatusの多くがverruculogen産生能を有していることを報告した。演者らは浮遊真菌のマイコトキシンと健康との関連性について現在も研究中である。

空中を浮遊するAspergillus属についての報告は数々されてきたが,日本国内の室内空気中における季節消長に関しては報告が少ない。今回,演者らは一般住宅において約1年間,定期的に室内浮遊真菌をサンプリングし,Aspergillus属の種類と濃度を調べた。また,当研究所が保存している空気中から分離されたAspergillus属についてマイコトキシン産生量を新たに分析したので,昨年の続報として併せて報告する。

方法

2. 1 浮遊菌調査

2011年1月から11月にかけて,東京都小平市および埼玉県上尾市の一戸建て住宅2軒において浮遊真菌の分離を試みた。1軒につき,台所5地点,和室5地点,屋外5地点の計15点をサンプリングした。サンプリングの頻度は1月につき1回とした。浮遊真菌の分離にはエアーサンプラーを用い,分離培地にはディクロラン18%グリセロール寒天平板培地(DG-18培地)を用いた。分離培地を25℃で7〜10日間培養した後,発生した真菌集落をツァペックドックス(Cz)培地や麦芽エキス(MEA)培地にて二次培養し,集落の形態および光学顕微鏡による微細構造の観察により,種あるいは属を同定した。

2. 2 マイコトキシンの分析

当研究所が保存するA. ochraceus のochratoxinA産生量と,A. fumigatus のverruculogen産生量を分析した。50ml容の三角フラスコに市販の米麦粒5g・水4ml・1%ペプトン水1mlを加えて高圧蒸気滅菌にかけ,A. fumigatusおよびA. ochraceusを接種し,20℃(一部菌株は30℃,37℃)で10日間培養した。培養後,酢酸エチル20mlで抽出・濾過し,濾過液を乾固して99.5%エタノールに溶解させ抽出液とした。抽出液0.2 mlを50%メタノールで13倍希釈して試験液とした。ダイオードアレイ検出器,蛍光検出器を直列したHPLCにて予備測定を行い,低濃度であったサンプルは希釈せずに,高濃度であったサンプルは適宜20%メタノールで希釈して,LC/MS/MSにて測定を行った。検出下限は概ね0.003ppm,産生量としては0.1µgであった。

結果および考察

3. 1 Aspergillus 属の季節消長

小平市住宅の室内空気中におけるAspergillus属の濃度を月ごとに示した(Fig. 1 -A)。同様に上尾市住宅におけるAspergillus属濃度をFig. 1 -Bに示した。

A. fumigatusは,病院,学校,一般住宅など様々な室内環境中に広範囲に分布していることが知られているが,空気中濃度(CFU/m3)は低いことが多い。今回も調査期間を通して分離されたが,いずれも低濃度だった。

2軒の住宅において顕著に分離されたのは,A. section restrictiの仲間だった。このグループは塵埃中に含まる好乾性真菌で,室内空気中からも高濃度で分離される事例をしばしば見かける。このsectionの代表種であるA. restrictusはアレルゲンとなることが知られ,医学的に重要な種である。また,このsectionの中でA. restrictusに並び分離頻度の高いA. penicillioidesは美術作品,工業製品,書籍の汚染菌として問題視されている。今回の調査では,いずれの月もA. section restrictiが高濃度に分離されており,上尾市住宅では8月に8,000CFU/m3を超えた。また,春季よりも冬季の方がA. section restrictiの濃度は高い傾向にあり,上尾市住宅では一般にカビが多いとイメージされる6月が最も濃度が低かった。この傾向は,同じく好乾性真菌のEurotium属(Aspergillusの完全世代)でも見られた。

3. 2 マイコトキシンの分析結果

検査したA. ochraceus が産生したochratoxinA量をTable 1. に示した。また,A. fumigatus が産生したgliotoxin量をTable 2. に示した。分析した保存株の大半がマイコトキシンを産生していた。
マイコトキシン産生カビを継続的に吸い込むことによる健康被害について,今後も室内空気分離株の分析データと居住者の健康状態についての調査データを蓄積していきたい。


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