
ご依頼に応じて各種検査・修復のご提案をいたします。個人様のご依頼もお受けします。
尚、ご発注いただいた業務内容につきましては秘密を厳守いたします。
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絵画『富士山図』の修復事例
2010.06.18

企業の大会議室に飾られていた1300号の油彩画作品の修復を行いました。専門業者によって壁から下ろされ、10数名の修復士やスタッフが約1ヵ月かけて修復や調査を行う大規模なプロジェクトでした。 注)ご発注いただいた業務に関しては一切情報を開示しませんが、このページでは特別に許可を頂いた事例についてご紹介しております。
作品の状態調査
本修復にあたり、この絵画の現状の確認を行いました。
作品の基本データ
温・湿度の変化により絵具が剥落していた
種別 | 1960年代、国内の大型油彩作品(キャンバス、油彩) |
寸法 | 縦1712×横7598×奥行80mm |
展示場所 | 社内大会議室 |
保存環境
作品が飾られていた場所は2壁面が全面ガラス張りの部屋にあり、一日の温度と湿度の変化が激しい環境にありました。この温度・湿度の著しい変化によりキャンバスの変形が起き、絵具層に多くの損傷が見られました。
損傷の状態絵の中央から下辺にかけて、絵具層が著しく浮き上がって亀裂が生じ、所々絵具がキャンバスから剥がれ落ちて(剥落)いました。

過去の修復状況
この絵は以前にも修復されており、裏打ち、補彩、接着が施されていました。
(注釈)
裏打ち: | 脆弱化したキャンバスの裏側に新しい麻布などを貼って補強すること。 |
補 彩: | 絵具が欠けて色が無くなったり、修復によって他の部分と色が異なるような箇所に周辺の色に合わせて色を加えること。 |
接 着: | 剥がれそうになっている絵具を接着剤で貼り付けて元に戻すこと。 |
上記の基本データを考慮して修復方針を決め、富士山図の修復作業に着手しました。
修復の作業
以下の手順で修復を行いました。修復作業前にいったん絵画をとりはずし、別室の作業エリアに絵画を移動させてから修復作業を行いました。
- 1.状態の調査
- 修復の作業に入る前に作品の状態を観察・記録して処置方針を立てます。 同時に作品の組成を調べるため、また作品に合った溶剤を確かめるために溶剤テストを行いました。
- 2.調査記録の作成
- 調査と記録のために作品の画面を通常光、次に斜光で撮影しました。こちらの調査記録と作業記録は作業後にクライアントに納品します。
- 3.画面の洗浄(1)
- 汚れは作品の劣化を進める原因なので、画面(絵)の表面に付着していた細かな埃を除去した後、溶剤で表面の水溶性の汚れを除去しました。
- 4.絵具層の接着強化と平滑化
- 絵具が浮き上がった箇所に接着剤を塗って(Pic1,2)、先端が細い修復用のコテアイロンで加熱して接着します。こうしてめくれ上がった絵具層を平らにしていきます(Pic3)。
- 5.画面の洗浄(2)
- 溶剤を使って表面の汚れや残留していた接着剤を除去していきます(Pic4)。また、過剰な艶を周囲となじむように調整します。白色化した汚れも除去します。 更に経年変化した過去の補彩箇所を除去しました(Pic5)。
- 6.絵具層の欠損部分の充填整形
- 絵具が剥がれ落ちて凹んだ部分などに、充填剤を入れて周囲との段差がなくなる様にならします。
- 7.部分ニスの塗布
- 凹み部分に入れた充填剤に水彩絵具でベースとなる色を付け、その上に絶縁層としてニスを塗布します。
- 8.補彩
- 充填部分はそのままだと周囲と色が違っているので、修復用樹脂絵具で仕上げの補彩を施し、充填していない部分は可逆性(再び元の状態に戻せること)を考慮し、水彩絵具で補彩を施しました(Pic6)。
- 9.艶の調整
- 場所によって画面表面に過去の補彩による艶ムラがあり美観を損ねていたので、艶ムラが著しい箇所のみ合成樹脂ニスで艶を調整しました。
- 10.処置後の写真撮影
- 修復処置前と同様に作品の表面、裏面を通常光、斜光で撮影しました。処置前の状態との比較、今後長く保存していく上でのデータとして画像記録を残すことは大切なことです。
- 11.報告書の作成・納品
- 今回の修復作業について記録写真をつけた報告書を作成しました。修復報告書は今後良好な状態に管理していく上で、また再び修復をするときにとても大切な役割を果たします。



下:過去の補彩の除去

修復前と修復後の比較例
浮き上がりの剥落の調整1


浮き上がりの剥落の調整2


過去の補彩の除去と再調整


納品
修復後に大会議室の壁に再び掛け戻し、その後作品そのものについて、また作品が置かれている環境状態についての報告書を提出しました。
修復結果
修復年月:2010年3月
処置日数:約1ヶ月
作業人数:延べ146名
作業レポート:A4 50P
修復年月:2010年3月
処置日数:約1ヶ月
作業人数:延べ146名
作業レポート:A4 50P
今後も同じ損傷を引き起こす可能性を回避するために、保存環境改善のご提案等も行い、納品とさせていただきました。